
生きていれば、誰でも落ち込んだり、憂うつになったりすることが当然あります。これは子供にもまったく同じことが言えます。
たとえば、自分は悪くないのに学校の先生に怒られたという場合。先生だから反抗することもできないため、自分の中に溜め込み、それが憂うつな気分を呼び寄せます。学校で友達とうまく付き合えない・・・だから憂鬱な気分になるなんてこともあるでしょう。
ただし、誰かに愚痴を聞いてもらったり、たっぷり睡眠をとっておいしいものを食べたりすれば、また以前のように元気になるものでもあります。
ところが、憂うつな気分が続き、いつまでたってもふさぎ込んだままで、何事に対してもやる気がなくなることがあります。これが「うつ病」の典型的な症状です。
大人がうつ病になると一般的には「悲しい」「暗い」「つらい」と感じることが多いですが、子どもは「悲しい」というよりも「イライラ」と感じることが少なくありません。
ちなみにアメリカの調査では、児童期から青年期の間にうつ病を体験する人は20%と言われています(『子どものうつ病』猪子香代、慶應義塾大学出版会より)。
子どものうつ病によくみられる症状
うつ病の行動に現れる症状
- 落ち着きなく動き回る
- 何をするのも遅くなる
- 話さなくなる
- やらなければならないこともできない
- 面倒くさがる
- 集中できない
- 次の行動を考えることができない
うつ病の身体的な症状
- 食欲がない
- 体重が減った
- 食べ過ぎてしまう
- 体重が増えた
- 眠れない
- いつまでも眠っている
上記以外にも、何をやっても楽しいと思えないことがつらいため、少しでも楽しい気分になりたいと派手な服装をしたり、に行ってしまったりすることもあります。
これは、失われつつある自分のエネルギーを保とうとするための行動です。上記のような子どもの様子を見て、まわりの大人たちはうつ病とは思えず、「思春期にはよくあることだ」「性格が変わったのかもしれない」と考えてしまうこともあります。
ただ、そんな子どもたちの中には、つらい気持ちを抱えている子が少なくありません。
医療機関へ相談する目安
イライラする、話さなくなるといった症状だけでは、うつ病かどうかの判断は難しいでしょう。特に、思春期の子どもの場合は迷うことも多いと思います。
参考までに、うつ病のサインの目安としては・・・
- 学校に行くことがつらくなる
- 仲の良い友達とも付き合いたくない
- 今までは楽しくやれていたことが苦しいと感じているとき
- 朝起きられない
- 夜眠れない日が続く
など生活に支障を来しているときです。これらの行動が2週間以上続いているときは、うつ病のサインであることが多いので、医療機関の助けを借りると良いでしょう。
なかでも、早めに医療機関の受診をしてほしいのが、子どもが「死んだらどうなるのかな」「どんなことをすると死ぬのかな」などと死に関係することを考えているときです。
そんなに大人が心配するようなことではないと思っても、子どもはどんな行動が致死的なのかという判断が十分ではありませんから、つらい気持ちを紛らわせようと思っただけの行為が、死につながってしまうことがあります。
ですから、自傷行為を予感させる言葉ではなくても、「自分はだめなんだ」「自分は悪い子なんだ」「もうどうしようもない」ということを子どもが口にするようでしたら、医療機関に相談することをおすすめします。
うつ病の子供は年々増えている
うつ病の子どもは年々増えており、誰にでもなる可能性がある病気です。子どもの心が弱いわけでも、保護者の育て方が良くなかったわけでもありません。子どもや自分を責めるのではなく、まず医療機関に相談してほしいと思います。
うつ病を疑って受診すると、発達障害だったというケースもあります。うつ病も発達障害も、治療によって改善することが多く、早めに受診することが子どもを救うことになります。
児童精神科に行くのを迷われるときや適切な医療機関がわからないときは、学校のスクールカウンセラー、または地域の精神保健福祉センターや保健所で相談をしてみると良いでしょう。
家庭でできる予防策
子どものうつ病を誘因するものとしてよく挙げられるのは下記の3つです。
(1)喪失体験(身近な人やペットの死、友達の引越など)
(2)不安(友達とうまくいかないとき、成績がなかなか上がらないなど)
(3)怒りの抑圧(自分は悪くないのに怒られたなど)
こうした出来事が起こったとき、誰もが憂うつな気分になると思います。しかし、そうした気分は、ゆっくり休んだり、家族や友達に話したりすることで解消されることがよくあります。
日頃から、不安になったり、イライラしたりしている子どもの気持ちに耳を傾け共感してあげることが、うつ気分の解消に効果的だと言えます。これは、うつ病の予防の観点からも大切なことです。具体的な方法を紹介します。
1.ゆっくり休ませる
子どもが、憂うつにしていると思ったら、すぐ悩みを聞きだしたり、解決しようとあれこれ口を出したりするのではなく、まず休息をとらせましょう。普段真面目で成績も良かった子が、勉強が手に付かず成績が落ちてしまい落ち込んでいたとしたら、「もっと勉強しなさい」と励ますよりも、ゆっくり休むことをすすめるのが良いと思います。
2.子どもの感情に共感する
ゆっくり休ませたうえで、子どもの話に耳を傾けましょう。その際、注意したいのは、保護者の気持ちを押しつけないことです。たとえば、子どもが友達とケンカしてしまい、顔を叩いてしまったとしましょう。ついつい「ダメでしょ、仲良くしなきゃ!」と叱ってしまいがちですよ。
「手をだしたのは悪いけど、どうして友達を叩いてしまったのかな? 何か腹が立つことがあったのかな?」と聞き、まずは子どもの感情を受け止めてあげてください。怒りの感情を持つことは決して悪いことではありません。子どもに「なぜそうしてしまったのか?」理由を語らせ、対処方法を一緒に考えてください。
3.不安をあおらない
「○○高校に受からないと将来大変よ」「勉強しないと大変になる」とせき立て、不安をあおることで子どもたちは大きなエネルギーを発揮することがあります。しかし、同時にストレスも子どもたちは感じています。
勉強でも部活でも、「自分のできるところから、少しずつ努力していこう」と何事もポジティブにとらえて、子どもを安心させてあげることが大切です。
子供のうつ病は増加の傾向をたどっている理由
子供のうつ病が増え始めているのには、子どもが親などから「より多くの期待をかけられている」ことに関係している可能性があります。例えば、受験という側面で見ると、近年では「受験の低年齢化」により、子どもたちは結果を求められるようになってきました。
そのため「期待された結果を出すことでしか自分が認められない」と考えるようなってしまうと、息苦しさを感じ始めるでしょう。
そうした環境で育った子どもたちは、努力してもどうにもならない出来事が繰り返し起きると、「自分ではどうすることもできない」と思い、無気力になり何もしようとしなくなってしまいます。
結果よりも子どもの努力を評価して
勉強や部活などで、良い結果を出すことがすべてではありません。子どもが努力する過程を認め、自信を持たせてあげてください。自信を持たせてることによって何かができると、子どもは「自分でできた」と達成感を持つことができます。
子どもが小さいうちから、大人になってく過程で「やればできる」という自信を持たせることがとても大切です。結果の善し悪しだけでその「頑張り」を判断するのではなく、そこにいたるまでの活動・過程を褒めてあげることがとても重要なのです。「がんばって最後までできて良かったね!」と声掛けをしたりして、子どもの「頑張り」を褒めてあげる習慣をつけてください。
子どもに「自分はできるんだ」と自信を持たせることは、保護者が子どもに与えることができる愛情です。子どもたちが悩んだときや不安になったとき、立ち上がるための糧となってくれるはずです。こうした働きかけを、ぜひ継続的に行ってください。