
中学生・高校生のうつ病について
昨今では、中学生・高校生のうつ病も珍しくなくなりました。過去には。青年期(思春期)での精神的な混乱状態は発達過程の正常な状態とされていましたが、1970年以降、青年期を対象に成人のうつ病基準をそのまま用いた研究が多くなされました。
「うつ病」は、実は小学生でもなることがあり、中学生以降は急激に増えて大人と変わらない頻度で起きています。現在では、児童、青年期においても成人と同様にうつ病と診断しうること、児童、青年、成人期と通じて同様の症状(うつ病の症状)を示すことが明らかになりました。
そのため児童期から青年期、成人期にかけて同じ診断基準が用いられるようになりました。診断基準は以下のとおりです。
- 抑うつ気分
- 罪責感
- 孤独感
- 快楽の喪失 (物事に楽しさを見出せない)
- 食欲不振あるいは過食
- 不眠あるいは過眠(睡眠のリズムが大きく崩れる)
- 精神運動停止(行動が過少状態になる)
- 易疲労(えきひろう)感 → 肉体的にではなく、特に認知が要求される課題を行うと生じる疲労のこと。
- 無価値感
- 集中力の減衰
- 希死念慮
但し、一部年齢による違いもあり、年齢が低い場合、抑うつ気分、罪責感、孤独感などは話してくれず、行動制止(動きがゆったりしてのろいこと・物事の処理のしかたが手ぬるいこと)や身体症状が主であることが多いとされています。
具体的には・・・
- 授業中の態度の変化
- 友人からの孤立
- 成績不振
- 不登校
などと言った行動に表れることがあります。
年齢が低い小児期は判断が難しい
また年齢が低い小児期においては、診断基準にある抑うつ気分の代わりにイライラ下気分にな場合もあります。行動の激しさの中に抑うつ気分があることを見出すのは難しい部分がありますが、実は倦怠感の渦中にあり友人への関心が薄れたり、内にこもり、感情を失い、寂しく、誰からも愛されていないと感じている場合があります。
これらを判別するには、注意深く対話をしてどれだけ苦しんでいるかを聞き出すことで、本人の感情が露わになったりします。
そしてこれが、中高生へと年齢が上がっていくと、思考や表現が発達するため成人のように抑うつ気分や絶望感、希死念慮を口にすることが出来るようになるのです。
また、青年期(思春期)にうつ病となると、慢性化しやすく、成人になってから、再びうつ病を再発する可能性が高いことが分かっています。
高校生うつ病は非定型うつを伴うものが多い
さらに、近年、大学の保健管理センターや高校生でうつ病では「非定型の病像を伴うもの」が徐々に増えていることが知られています。
- 特徴的な身体症状が逆に出ること
- 食思不振の代わりに食べ過ぎ、不眠の代わりに過眠
- 対人関係への不安感です。
非定型の特徴

青年期・思春期うつ病の治療
治療開始前にうつ病の重症度を、注意深く評価する必要があります。評価に際しては、うつ病自身は軽症でも、併存する他の精神障害の有無にも注意し、全体としての重症度を評価します。
青年期・思春期のうつ病では発達障害(自閉症スペクトラム障害、高機能自閉症)や不安障害などの存在の可能性に気をつけて面接しなければ、それらの併存を見逃してしまいます。
それらが併存すると、表面上、どれ程うつ病が軽症でも、難治となることが多いのです。軽症であれば、母親と、または両親ともに来院してもらい、共感的に話を聞き、現在の彼女(彼)のストレスの原因となっているものを調整するだけで回復することもあります。
この様な支持的精神療法や環境調整が有効なことも多いのです。一方、現在、通学(就労)も困難で、自殺の危険もある症例の場合、入院治療も含めて考慮する必要があります。
日本で最も一般的なうつ病治療は薬物療法でありますが、青年期のうつ病に確固とした効果が出るクスリと言えるものはありません。現在では一般的なうつ病治療と同様のものが使われていることが多いです。
不安障害など、児童青年期でも有効性が確立した精神障害を有しているときには、状況を十分に考慮しながら慎重に投与を開始します。
認知行動療法は有効的な治療法
心理社会的療法で最も効果があると言われているのは「認知行動療法」ですが、家族療法、対人関係療法や力動的精神療法も実臨床では有効な治療として行われています。精神療法の基本は治療同盟の確立です。
青年期・思春期の症例では、患者を学校へ「無理矢理行かせる」ようなことはしないほうが賢明です。かえって治療の妨げになる場合もあります。
今の自分自身の状態に対して、治療に対して、学校、家族に対してのネガティブな気持ちとポジティブな気持ちの両方を聞き出すことから始めます。
また、どの精神療法を行うにしても、家族の関与が重要です。単純に環境調整の意味だけではなく、多くの歪んだ信念は家族環境の中で育まれており、認知療法でも家族の協力は不可欠です。
さらに、自分の気持ちを非言語的に行動などの形で表現するのではなく、言語的に表現するように促すことが症状の確認が早まり効果的です。
家で出来る治療補助のポイント
① 生活リズムを整える
自律神経やホルモンの調整機能なども正常に機能するようになり、その結果としてストレスも軽減されてきます。
② 無理をせず、小さなことから少しずつやってみる
うつ病の回復には波があることを正しく理解して、一進一退を繰り返しながらゆっくり進んでいくことを受け入れることが大切です。
少しよくなったかと思えば、症状が出ることもありますが、その都度、落ち込んだり焦ったりすることがないようにしてください。ほんの少しだけでもいいので、ポジティブに物を考えてみるようにしてください。
そして、「近所を散歩してみよう」など、意欲が湧いてきたら、小さなことから少しずつ試してみてるのが大事なことです。回復期には、家族と一緒に散歩に出掛けることも、気持ちを前向きするための一つの方法です。
③ 学校生活に復帰することが最終ゴールではない。
最終的な目標は、うつ病が再発することなく、学校生活・学業を、安定的に持続していけるかどうかということなのです。そのためには、学校への復帰後も、治療を継続して、医師の指示に従って、あくまでも無理をせず慎重に、症状の経過を見ていくことが求められるのです。
④ 通学再開に向けての準備
通学を再開するに際して心掛けることは、何をおいてもまずは体調を整えることです。長期間、学校を休んで療養を続けてきた人は、体力が大幅に低下している可能性があります。
日内リズムを整えて、昼夜逆転した夜型の生活リズムを修正し、1日3食の食事は決まった時刻に規則正しく食べるようにしていきます。
爪や髪を切って整え、男子の場合は髭を剃るなど、徐々に身だしなみを整えていくことも大切なことです。少しずつ外出に慣れていくことも重要です。近所の散歩、買い物など短時間の外出から始めて、徐々に外出時間・距離を延ばしていくようにしてください。
そして次第に自信がついてきたら電車やバスに短時間でも乗って体を慣らしていくようにしてください。大事なことは、いきなり何でもかんでもしてみようとするのではなく、できそうなことを一つずつ段階的にこなしていくことなのです。
⑤ 焦って復帰時期を早めるのは非常に危険なことです
下記のような症状がある場合は、復帰時期としては尚早であると言えますので、十二分にご留意いただきたいと思います。
①強い疲労感や体調不良がある
②不眠がしっかり改善できておらず、眠気を感じることがある
③外出する際に不安になることがある
④復帰への焦燥感がある
⑤周囲(医師や家族)の助言・指示を素直に聞き入れることができない
⑥集中して物事に取り組むことができない
こうした症状がある場合は、もう少し学校を休んで様子を見るべきです。特に、復帰への焦燥感が強いにも関わらず、物事に対する集中力がなくなっているような場合は、いきなり学校生活に復帰して、負荷のかかる受験勉強を始めることは非常に危険であると言わざるを得ません。
⑥ 子どもの体調に見合った進路選択が望まれます
中学校で長期欠席や不登校の子どもが、全日制の高校に毎日通学することは、体力的にも難しい場合があります。通信制高校や定時制高校、チャレンジスクールなど、無理なく通学できる高校もあるので、目先のことではなく将来を見据えた進路選択をすることが望まれます。
高校は、中学校よりも遠距離にあることが多く、通学で体力や気力を消耗しやすくなると言えます。これまで徒歩圏内の地元の公立中学に通っていたような場合は、毎日早朝に起床して満員電車に乗って毎日通学することを余儀なくされることになります。
遠距離通学を想定する場合は、通学時間帯と利用交通機関の混み具合についても、事前に把握しておく必要があります。つまり、「受かればよい」という考え方ではなく、「ちゃんと通えるかどうか」ということは重要になってくるのです。負荷のかかるような長時間の通学を続けて、うつ病が再発してしまうと元も子もありません。
そして、親の方としては「ちょっと頑張れば、全日制高校に通えるのではないか」と思いがちです。しかし、早計に判断せず、高校進学後に、子どもがもし通学できなかったときのダメージやリスクを考えて慎重に検討されたほうがいいでしょう。
全日制高校にこだわらず、無理のない進路選択を模索することが重要です。
子どもの体力に見合った高校を選ぶことが望ましく、本人の希望する高校が特にないような場合は、体力に見合った、通信制高校の通学型(サポート校)や、三部定時制高校、そしてチャレンジスクールなどを選ぶことも検討したほうがいいでしょう。
⑦ 目先の高校受験ではなくその先の大学受験を見据える
近年は、全日制高校にこだわらなくても、少なくとも東京などの都市部においては、単位制・通信制高校、そして通信制高校の通学型サポート校、都立の三部・四部定時制高校、チャレンジスクールなど、中学時代に長期欠席によるブランクのある生徒でも比較的に無理なく通学できる高校が増えてきています。
こうした多様かつゆるやかな進路選択を考えることで、焦らずにじっくりとうつ病の治療・休養に専念することができるようになりますし、目先の高校受験にとらわれるのではなく、あくまでも将来の大学受験までに間に合えばいいという、ゆったりとしたスタンスも必要です。
うつ病が回復したばかりの状態で、いきなり短期間での詰め込みで受験勉強を行うことは、再発リスクを増大させますし、再びひきこもりへと戻ってしまうことは少なくありません。そうしたリスクを回避するためにも、進路選択にはある程度の余裕と長期的なスタンスが必要になってくるのです。
⑧ 高校入学後の通学シュミレーションについて
学校見学や個別説明会では、通学距離や交通手段を実際に確認してみることが大切です。実際に、自宅から高校まで行ってみて、毎日通学できそうか、あるいは週にどれぐらいの頻度(週1~3)であれば通学できそうかを、シュミレーションしてみることが必要なのです。そして、通学時間や交通機関を利用してみて、どの程度の負荷かがかかるかを確認しておかねばなりません。
学校見学などの日は土曜日などに実施されることも多いので、入学後の通学を想定して、平日の始業時刻に間に合う時間帯に交通機関の混み具合や、通学時における自分の体力的な負担、高校の普段の雰囲気、在学生の日常の様子などを把握してくことも大切なことです。
高校には受かって入ることが目的はありません。そうではなくて、入学後に通学を続けることができ、学業に持続性を持たせることができるかどうかということの方がはるかに重要なのです。
高校に受かるための受験勉強による過度のストレスや、通学による体力・気力の疲弊で、高校入学後にうつ病を再発して通学できなくなり、その後症状が悪化して、不登校やひきこもりが固定化・常態化してしまうようなことがあれば、何の意味もありません。
その結果として、留年・中退という厳しい現実が突きつけられることになります。高校は、中学までの義務教育とは異なり、全員が進級・卒業できるわけではないからです。